一人酒を覚えた。
死ぬために用意した酒を、これからの人生に向けた祝杯にした。
焦燥した頭で購入した瓶酒は見たこともない名前で、とにかく美味しかった。
思ったより甘くてさっぱりしている。口に溜まる炭酸が初夏を感じさせる。
夏日が増えた。こたつ布団が消えた。
周囲に肌色が増え、額がじっとり汗ばむ気候になった。
暑いのは得意じゃない。冬より引きこもらないってだけで好きじゃない。
海に行っても泳げないし。あの水着どうするっていうんだよ。
未来への投資を少しずつ繰り返して、毎日にお疲れを告げて日々を繰り返していく。
「また生きてみようかな」「もうあきらめようかな」の波が繰り返されていく。
一昨年はこの時期に入院していた。無機質な部屋の中で外部と接触すらできず、公衆電話の向こう側から聞こえた大学の友人の声に泣きそうになったことを思い出した。
布団から起き上がれない自分が消えたとは思わない。あれも自分で、これも自分。
元気な自分が久々すぎて、いまいち慣れていない。でも、生きやすい。
生きやすい。今はとても生きやすい。自分の足で社会に溶け込むことができるのがたまらなく嬉しい。
二本足で立つことさえままならなかった過去は留めて、今は今を楽しみたい。
たわいもない、ということが人生にどれだけ必要かということを思い知らされる。
また1年生きた。明日も生きる。苦しいことも含めて生きていく。
手紙を出すとか、会いたい人に会いに行くとか、そういう未来の予定を作る。
やり取りの中で笑ったり困ったりするのも人間的で、そういうのが戻ってきたことに驚いて、また喜びをかみしめている。
これはお酒の勢いで書いている。今日は一人酒を覚えた日。
好きな音楽を聴いて人と会話をしてお酒を飲む。
非常に、楽しい。
先週に死のうとしていた。生きててよかった。
死に飲み込まれないように、だましだまし使っていた「生きていてよかった」という言葉が、はっきりと意味を持っている。
耐えがたい幸福感に押しつぶされそうだ。
自分で自分を幸せにすることはあまり慣れていない。
もう少し飲んで寝ようと思う。
あなたも生きていてよかった、そして私も。